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痕跡 |
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例えば交通事故の現場に残されたタイヤのブレーキ痕が事故の原因を物語っているという事がある。 痕跡が事故の事象を表現している。
又職人が長年使用してきた道具を見るとその職人の技量が窺える 道具に残された痕跡でいかに使用されたかがわかる。
あるいは古代の壁画などに微かに残った彩色の痕跡から壮大な時間の経過を感じることができる。
道具やものに現れたそれはいったんデザインとか機能で完結されたものに使用することや風化によってさらに表情が加わる。
痕跡が視覚による認識の範疇に与しているというのは、すでに美術史の中でも語られてきたことだ。
例えばジャクソン・ポロックのドロッピングの作品は作者による筆のコントロールを超えたところ起きたキャンバスの上の事件であり鑑賞者は現場検証をするようにその作品を読み解く。陶芸家濱田庄司の釉薬かけ流しもそのように見ることができる。考古学者は風化の前の姿を想像する。
痕跡とはある行為なり運動、時間の経過の結果として残るものだがそれは同時にモノと事が視覚化され認識されたことになる。痕跡から
現場感が覚醒され、追体験をするように作品の中へ引き込まれる。
「痕跡」を広義に解釈すれば絵画は絵の具と筆による痕跡であるし、書も紙の上に残された墨と筆の痕跡という事が出来る。
また痕跡は意味するもの以外のものでありながら視覚と関係がある。例えば墨と筆で漢字の一を書けば一、という意味だが視覚にとらえられる滲み,擦れ 勢い書き手の癖までもが意味とは関係なく認識されてしまう。 すべてが現場に表現されている。
痕跡は意図的に残されたものと区別されなければならない。 事件を偽装する犯人のようにいずれ見破られる
これまで味と言う感覚的な言葉でひとくくりされた曖昧な美意識が痕跡と現場という違ったくくりで見ることが出来る。
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